獣医師が最も育つのは修羅場の経験をさせることにつきる

ある動物病院の院長とスタッフの教育について話し合っていたときに
10年前の時のお話をお聞きしました。

「自分が勉強会で病院を一日あけたとき、当時まだ2年目だった
獣医師が初めてやる手術を自分だけでやらなければならない
ときがあったんですよ。
当然ながら分からないので自分に電話してきたのですが、
DVDがあるからそれを見てやれと言ったんですよ。
そうしたら彼は手術前にDVDを見てなんとか手術を無事に
終えたんですよね。
あの経験をしてから一皮むけたと思いますね。」

どうやったらいいんだ?自分でできるのか?
失敗できないぞ!

という風に精神状態はカオスになっているに違いありません。
やったことがないことを院長に頼らずにやらなければならない
という状況は不安でたまらないと思います。

しかしこのようにやらざるをえない状況に追い込まれるからこそ
自分で何とかしようという意識になり、それこそ全能力を
フルに集中させて取り組むことができるようになると思うのです。

今、活躍されていらっしゃる獣医師の先生方はどこかでこのような
自分だけで打開しなければならない修羅場を経験しています。

この修羅場をくぐった人がその後さらにチャレンジをして
成長していくのです。
修羅場という試練から逃げている人はいつまで経っても
成長せず、変わらないでしょう。

院長が不在で自分がやらなければならないというとき、
自分が何とかするんだ!という責任感が生まれてくるのです。

私も過去にこうした修羅場を経験しました。
私は30代の時、初めて50代の管理職の育成の仕事をさせて頂いたとき
毎月お客様の会社に行くのが憂鬱でした。

自分より一回り以上も上の方に対して一体何ができるのだろうか?
自分が言ったことを受け入れてくれるのだろうか?

という風に不安で仕方ありませんでした。
今振り返れば進め方は失敗だったかもしれませんが、
この経験をさせて頂いたことで今では自分より年上の管理職の育成
は得意分野となっています。

社長と話すのも最初は気が引けていました。
自分に自信がなかったからだと思います。
しかし、今できるのは自分を高めていくことしかないと思い
いつも目の前のことに対して必死に取り組んできたことで
今の自分があります。

もしあの仕事から逃げていたらきっと今の自分はないだろう
と思うことがいくつかあります。
「あの仕事」というのはいずれも自分の能力を超えているもの
ばかりです。

荒っぽいやり方に見えるかもしれませんが、仕事の基本を教えたら
次にやることは修羅場をくぐらせるということです。

この時に院長に必要なのは

もし失敗したら自分が責任を取ればいい

と腹をくくることです。
やったことがないことをやらせるのですから、失敗することもありえます。
上手くいったら褒め、失敗したら自分が責任を取るというスタンスが
重要です。

任せた獣医師が失敗してしまったときはフォローをすることとなります。
失敗したくて失敗する人はいません。
例えばお客様に迷惑をかけてしまったとき、

お前がやったんだから、お前が謝って来いよ。

ではなく、院長が任せた自分の責任としてお客様に謝ることとなります。
こうした院長の姿勢を見せることで失敗してしまった獣医師は
反省し、次のチャレンジに備えるでしょう。

任せて失敗して怒られたらもうチャレンジはしなくなるのです。
失敗したら怒られるという悪い記憶が脳に刻まれて行動が消極的になるからです。

スタッフに修羅場をくぐらせるということは、スタッフも大変ですが
院長も任せる勇気と責任を取るという覚悟が必要になります。
こうしたことを自然とやっている病院はスタッフが育っていますね。